農薬の毒性・健康被害にもどる
t12009#アメリカ環境団体のシンクタンクが作成の「予防原則」の解説を翻訳発行#01-10
予防原則という言葉は最近よく耳にします。1992年に発表された「環境と開発に関するリオ宣言」いわゆる「アジェンダ21」として知られる宣言の中で示されたもので、「環境を守るために各国はその能力に応じて予防的アプローチを広く採用する。重大なあるいは回復不能な損害の脅威がある場合、十分な科学的根拠がないことを理由に費用効果の高い環境悪化防止策が先延ばしにされてはならない」と記されています。
日本も含めて各国は予防的措置を広く採用しなければならないのですが、どうも、その定義、内容、方針などがはっきりしません。環境省に問い合わせても、「われわれは予防原則とはいわない。予防的措置をとるとしているが、具体的な内容についてははっきりしたことは決まっていない。」と言うだけです。
これでは、予防原則を取り入れた法律を作れといっても、うやむやにされてしまうでしょう。
★北米の環境団体が定義
アメリカやカナダでは環境保護団体などが中心になって、1998年にウイングスプレットで、市民運動家や学識経験者、研究者、法律家などが集まり、予防原則の定義を決めました。予防原則に関するウイングスプレット宣言は、アジェンデ21の内容をより深化させ、具体化したものです。
この会議の主催者の「科学・環境衛生ネットワーク(SEHN=The Science And Environmental Health Network)」は、「予防原則を進めるために(THE PRECAUTIONARY PRINCIPLE IN ACTION)」というハンドブックを発行しました。
SEHNは1994年にアメリカ・カナダの環境団体によって設立されたネットワークで、環境運動の科学的・理論的方向を示すシンクタンクとしての役割を果たしています。予防原則以外にも、農業用バイオテクノロジー問題、生殖や発育毒性問題、公衆の健康保持など幅広く活動しています。
著者は3人ですが、その中のキャロリン・ラフェンスパーカーさんは、SEHNの責任者です。ノースダコタがホームベースになっていますが、世界中飛び回っているようです。ナンシー・メイヤーズさんもSEHNのコミュニケーション・ディレクターで、シカゴに住んでいます。おそらく事務局長的な仕事をしているのではないでしょうか。ジョエル・ティクナーさんはマサチューセッツ大学の先生で、ローウェル持続可能な生産センターにも属しています。
このハンドブックは、日本では浜松医科大の渡部和男先生のホームページで紹介されました。これは、生活環境を汚染する化学物質を規制する法律制定運動をしている私たちにとって、長年考えたきたことが体系的に整理され、実に胸のすくような内容だということが分かりました。
反農薬東京グループは渡部先生とSEHNの原著者の許可と協力を得て、日本語版をてんとう虫情報増刊号として発行することにしました。
★市民のための予防原則の中身
ハンドブックは、「はじめに」の中で「危険であることを証明する義務は市民側に課せられ、危険な製品や活動は、それが有罪であると証明されるまでは無罪であるとみなすのが当たり前のこととされてきた」とありますが、まさに日本の現状もその通りです。
予防原則は、この壁をうち破るためのツールで、市民や意志決定者が環境や市民の健康を考える上で、避けて通れない共通の方法論を提供するものと説明されています。
ハンドブックの目次は、
1,はじめに
2,予防原則の歴史
3,予防を構成する要素
4,予防の方法
5,予防措置の例
6,予防措置の発動:プロセスフロー
7,ダイオキシン:何故予防措置が必要か
8,不確実性を理解する
9,リスク評価か予防原則か
10,批判に答える
11,参考文献
12,付録
13,連絡先
となっていて、体系的に予防原則を知ることが出来るようになっています。
特に、6の「予防措置の発動:プロセスフロー」では、具体的なケーススタディを二つ用意して、それぞれステップに沿って解説しています。ケーススタディAは、地域で新しい殺虫剤を空中散布する計画が持ち上がったケース、ケーススタディBは、ゴミ処分場から有害物質が漏れ出ているケースと、日本でもすぐ適応できそうなケースが選ばれています。
9の「リスク評価か予防原則か」は、ぜひ広めたい考え方です。最近、リスクアセスメントが政府や企業よりの学者にもてはやされていますが、どうも、うさんくさいと思っていました。ここでは実に明確にリスクアセスメントの批判が書かれています。
ぜひお申し込みください。送料込みで500円です。1月12日付け毎日新聞で紹介されました
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作成:2001-10-25 更新:2002-01-25