ダイオキシンにもどる
t12202#環境省の農地土壌等のダイオキシン汚染調査から#01-11
てんとう虫情報95号で、環境庁が99年9月に公表した農用地土壌のダイオキシン調査結果について報告しましたが、去る8月31日、環境省は平成12年度水田等農用地を中心としたダイオキシン類の排出実態調査結果についてと平成12年度農用地土壌及び農作物に係るダイオキシン類実態調査の2つの報告を公表しました。
本号では、両報告にある農耕地のダイオキシン汚染の実態に焦点をあててみました。
★水田土壌には除草剤PCPやCNP由来のダイオキシンがいっぱい
「水田用地」調査は、すでに水田土壌に蓄積されたダイオキシン類(除草剤PCPとCNP由来と考えられている)の水系への移行に関する知見を得るために4つの試験田で実施されました。
表1には、それぞれの水田での農薬使用歴とPCP、CNP及びダイオキシン類の水田土壌中での濃度を示しました。A、B、Cは一筆の水田、Dは水田群モデルで、試料名の項の「水田土」は水田の土壌を、「非農地」は、同一試験場内の非農耕地の土壌を意味します。
農薬そのものの残留について、PCPはすべての水田及び非農地土壌で検出限界以下でしたが、CNP(含むアミノ体)は、使用後15年以上たつにもかかわらず、すべての水田土壌に90〜240ppb、D試験場では、経緯は不明なものの非農地でも70ppb見出だされました。農薬使用歴の詳細はわかりませんが、散布されたCNPが永年にわたり水田土壌中に蓄積された結果だと思われます。
ダイオキシン濃度については同族体・異性体の実測値を挙げた上、再下段にTEFの設定された29種のダイオキシン・ジベンゾフラン・コプラナーPCBの総和であるTEQ値を示しました。
TEQ値が、全ダイオキシン実測量よりも、少ないのは、TEFがゼロである1,3,6,8−四塩化や1,3,7,9−四塩化ダイオキシンやTEFが0.0001の八塩化ダイオキシンの比率が高いためです。水田の平均値では、総ダイオキシン濃度は、TEQの約1000倍と考えてよいでしょう。
すべての試験場の非農地でも、水田よりは少ないのですが、ダイオキシンが検出されています(これが、農耕地からの飛散か、他の発生源によるものかは不明だが、異性体分布パターンから除草剤の寄与率が高いと考えられる)。
ダイオキシン異性体について、PCPは八塩化ダイオキシンと1,2,3,4,6,7,8−七塩化ダイオキシンと同ジベンゾフランの、CNPは1,3,6,8−と1,3,7,9−四塩化ダイオキシンの含有率が高いことは知られていますので、土壌の実測値で、変動はあるものの、この4種が他の同族体・異性体よりも高い濃度で検出されているのは予想されることです。農薬使用歴がいまひとつ明確でないのですが、八塩化物の濃度が高い土壌はPCPの、四塩化物の高い土壌はCNPの影響を受けた結果だと思われます。
CNPに含有される総ダイオキシンは0.2−0.3%程度ですが、土壌中のCNPに対するダイオキシンの比率は、これより高く、ダイオキシン類の蓄積性の方が大きいことを示しています。また、PCPもCNPもそれ自体ダイオキシン前駆体となり得ますので、水田土壌上でのイナワラ焼却などで、新たなダイオキシン類が生成した可能性を否定することはできません。
表1 水田土壌中におけるダイオキシン濃度 −省略
★水田からの排出率は年間0.0021%
水田土壌に蓄積されたダイオキシンがどの程度、水系に排出されるかが、上記4試験場で検討されました。そのため、栽培歴ごとの田面水や水田排水の濃度が測定されました。 一例として水田面積10アールのC試験場での調査結果を表2に示しました。
水田用水中にすでにダイオキシンが含まれているのは、表1の非農地がすでにダイオキシンで汚染されているのと関係あるかも知れません。
田面水中のダイオキシン量は、代かきや田植えで、たんぼをかきまわした後がもっとも高いという傾向は、どの試験田でも同じでした。水田からの排水中の濃度は、環境基準の1pgTEQ/l以下にでした(B試験場で1.74pgTEQ/l検出されたこともあったが、一時的で問題なしとされた)。
実験結果から、水中ダイオキシン濃度に排水概算量を乗じて、田植えから収穫までに水田から排水を通じて、環境中に放出される量は114.3ngTEQと推算されました。
同族体・異性体の種類により、土壌に対する吸着力や自然界での分解性に相違があるためでしょう、土壌中と排水中の実測値では、ダイオキシン異性体分布パターンが違いますが、このことを配慮せずに、TEQのみでみた場合、報告書では、水田の深さ30cmの土壌層にダイオキシン類が均一に分布すると仮定して、土壌に蓄積されたダイオキシン類総量は5.3mgTEQとなり、年間排出負荷率は0.0021%となるとの推定がなされました。
その上で「水稲の栽培期間中に水田排水によるダイオキシン類排出量は、水田土壌中のダイオキシン類残留量に比較して非常に小さいと推定される」と結論づけられましたが、裏をかえせは、水田土壌中にダイオキシンは何十年、何百年も残るということで、砂ぼこりとともに、空気から取り込むこともありますし、水田から排出されたものは、一般水系中に残留しつづけ、恐らく底質中に蓄積して、雨や嵐のたびに水中で舞い上がり、やがて魚体に生物濃縮され、最終的にはヒトの口に入るという食物連鎖をかたちづくることでしょう。
表2 水田の水質中のダイオキシン濃度調査 −省略
★農用地のダイオキシン汚染度順位は、水田>ゴミ焼却施設周辺>一般農地
「土壌及び農作物」調査は、ゴミ焼却施設から排出されるダイオキシンの影響を調べるのが目的で、農用土壌とそこで栽培されている農作物に含有されるダイオキシン類についてなされました。当然ながら、農薬由来のダイオキシンも存在すると思われますが、この調査では考察から除外されています。
調査対象となった農地は188個所(焼却施設から1km程度の土地を発生源周辺として73、その他を一般農地として115個所)、農作物は37種376検体で、ダイオキシン、ジベンゾフラン、コプラナーPCBについて、TEFが設定されていないものも含めて分析がなされました。
表3には、農地土壌中に検出されたダイオキシン濃度の高い部類に属する個所をいくつかピックアップして載せました。作物用地の項には、そこで栽培されている作物名を、圃場用地の項には、ゴミ焼却施設周辺の農地を「発生源」、その他は「一般農」と記してあります。なお、表には、誌面の都合上、全ダイオキシンとTEQの値しか示せませんでした。
全農耕地における平均値を「発生源」と「一般農」にわけて、また、調査個所の多かった水田67ヵ所の平均値も右欄に記しました。
表3 農用地土壌中のダイオキシン類濃度(単位:pg/g) −省略
TEQが200pg/gともっとも高かったのは(この数値は、環境基準1000pgTEQ/g及び調査指標値250pg/gよりも低く、何の規制もない)、大豆畑の土壌で、1,2,3,7,8−五塩化ダイオキシン(最強の2,3,7,8−四塩化ダイオキシンと同程度の毒性がある)の寄与率が三分の一を占めていました。土地の所在は明かにされておらず、ゴミ焼却場の1km以内にある地としか分かりませんし、農薬使用歴も不明のため、ダイオキシンの由来を推定することは困難です。
汚染度ワースト20位にある農地の多くは水田ですが、ほかにナス、コムギ、ネギ畑も1個所づづありました。たとえ畑地であっても、以前水田であったり、そこで、稲わら・農産廃棄物あるいは、ハウスやマルチ用の農ビフィルムが焼却されたかにより、ダイオキシン量は大きくかわることでしょうから、汚染度の法則性をみつけることもできません。
表に示したダイオキシン濃度の平均値をからわかるように、水田>ゴミ焼却場周辺>一般畑地の順で汚染度が高いといえるくらいでしょう。この水田土壌に平均値で、2,3,7,8−異性体と1,2,3,7,8異性体の合計が、全TEQ量の40%にあたる17.7pgTEQ/g含有されているとは驚きです。
表3で、TEQ値が全ダイオキシン値より数百分の一から千五百分の一程度低いのは、前節の水田調査の場合と同じく、CNPとPCP由来のダイオキシンの寄与が多いからと思われます。
環境省の二つの調査は、過去に使用された塩素系農薬由来のダイオキシン類の影響をもはや、私たちは免れ得ないことを明白にしています。
なお、土壌汚染だけでなく、ゴミ焼却場などからの大気汚染の影響を受ける農作物自体のダイオキシン汚染について、データの紹介はしませんでしたが、今回の調査でTEQが高かったのは、荒茶/モロヘイヤ/ホウレンソウ/コマツナ/シュンギクなどの葉菜、果実では、ブドウ/カキなどでした。
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作成:2001-12-25