環境汚染にもどる
t12802#東京都がスギ花粉抑制事業で今年度から−未登録農薬を民家の近くでテスト#02-05
★東京都がパイロット事業
 2月13日、東京都林業試験場は一昨年から行っていたスギ花粉抑制の実証試験結果を公表しました。発表では、植物成長調整剤であるマレイン酸水溶液を注入すると、直径27cm未満のスギであれば花粉源である雄花の量を、平均90%以上抑制できるとしています。方法は、スギの樹幹に孔を開け、油差し状の容器で薬液750から1000ccを半日ほどかけて徐々に注入するというものです。

   【参照】スギ花粉抑制の試験結果について

 東京都は今年度からのパイロット事業として、都内10haに同剤を試用する計画で、施工場所について都産業労働局の浪越局長は、都議会の質疑で「神社や公園にあるスギ約2万本を対象に実施したい」と答えています。
 試用が検討されている薬剤は、マレイン酸ヒドラジドの0.05%水溶液で、試薬メーカーの薬品を使っているとのことでした。いままで、同じ系統の薬剤として、マレイン酸ヒドラジドのエタノールアミン塩、ナトリウム塩、カリウム塩、コリン塩の4種が、タマネギやジャガイモの発芽防止として植物成長調整剤や開墾地・非農耕地用除草剤として農薬登録されていますが、前二者を成分とする農薬はすでに登録が失効しています。
 いままでこれらがスギに適用されたことはなく、また、マレイン酸ヒドラジドそのものを活性成分とする製剤の登録もありません。
 農水省はスギ花粉抑制剤を農薬取締法でいう農薬に該当すると解釈しています。従って、新に農薬登録を申請する必要があることがわかりました。

★試験は、農薬取締法の適用外
 登録時に課される安全性等の試験をパスしていない未登録の薬剤を広範囲で使うのは、農薬取締法違反ではないかと農林水産省農薬対策室に聞いたところ、「試験は農薬取締法が適用されない」と回答しました。
 民家近くの10haという広い面積で、農薬に類する薬剤を登録前に使用することは許されるのでしょうか。同法は、農薬の製造販売時の取り締りが中心で、農薬の効果試験については何をしても問題なしとするのは理解できません。
 試験について法律の規制はありませんが、農水省は「適用病害虫に対する薬効に関する試験」という通知をだしています(H12年11月24日付12農産第8147号、農林水産省農蚕園芸局長通知)。これによると、薬効・薬害試験は、「ほ場で行なうこととし、試験目的を達成するために十分な面積の薬剤処理区及び無処理区並びに原則として対象薬剤区を設ける」となっています。
 しかし、具体的にほ場の面積などの規定はありません。本来、これから農薬登録を受けようという薬剤の試験は、思わぬ影響が出ることを想定し、人家から離れて初めは小規模に行って徐々に拡大させるべきものです。
 今回の場合、10haという広い面積がはたしてが「試験用ほ場」と言えるのか。これでは試験に名を借りた、未登録農薬の大規模使用ではないでしょうか?
 都のパイロット事業計画では、低濃度水溶液の樹幹注入では周囲への影響はないとして、民家近くの都有林10個所と公園1個所を予定し、5月末には具体的な場所が決まります。マレイン酸ヒドラジドには、不純物として発がん性のあるヒドラジドが含有されている恐れもあります。大規模なパイロット事業をする前に、毒性や環境への影響を科学的に調べる必要があります。

★花粉抑制剤は実用化可能か
 都は、今後04年度までの3年間に、直径27cm以上の成木についての薬剤の適正注入量の解明、注入による材質調査、長期にわたる効果・影響についての調査などを目的とする実証試験を計画しています。毎年、薬剤を注入しなくてはならないのか。生長途中で枯損すれば風倒の危険があり、薬剤処理が生長に悪影響を与えないのかの見極めも必要です。  また、都の資料では薬剤注入個所が変色するなど製材後の商品性に不安を残す結果も出ています。これらを解決したとしても、その技術を都内の民有林所有者が費用などの点で受け入れるのかも未知数です。その上、マレイン酸ヒドラジドを本格的に使用する場合、農薬登録の申請をせねばなりません。その際には、多くの毒性試験や一般環境中での消長などのデータが必要です。東京都は、実証試験やパイロット事業で有効性を示すデータをだし、農薬メーカーがそれに乗ってくれることを期待しているようですが、果たしてうまくいくのでしょうか。
 一方、都議会では費用対効果に疑問の声があがっています。先の予算委員会では自民党の山崎委員が「花粉を盛んに生産する20年生以上の杉が2万haに4000万本ある。1本500円かけると毎年200億円かかる。4000万本を1年で(処理するの)は到底無理だ。春は山武(さんぶ)杉の産地である千葉県から東京に花粉が飛来する。花粉症対策は予防対策や森林管理に加え、大気汚染の改善など関東全体を視野に入れた総合的な取り組みが必要。」と発言しています。

★神奈川県は間伐で試験
 神奈川県はスギの切り方を、1本ずつ/群状/帯状の3つ間伐方法によって花粉発生を抑えようと考え、02年度から3年計画で調査事業を始めます。
 また、2000年度から生長が早く花粉量の少ないスギを発掘して種子を取り、苗を生産して出荷できる体制ができています。一方、東京都は昨年の5月に苗木にマレイン酸ヒドラジドを注入した結果、96%花粉を減らせたと発表しています。しかし、処理された樹木が20年後に製品価値のある材木になるのか、また、コストは見合うのかといった予測ができず、花粉抑制対策としては神奈川県による「選んだ種子を殖やす」といった昔ながらの方法が無難です。

★試験研究は外部の評価が必要 −略−


t12902#要望に応え、東京都が杉花粉発生抑制パイロット事業延期を決定−使用薬剤に発癌物質混入の恐れ#02-06
5月31日に、パイロット事業中止を緊急要請
  【東京都産業労働局宛ての要請文】

   5月30日付の毎日新聞や河北新報等の報道によりますと、農薬
   メーカーの日本ヒドラジン社が、マレイン酸ヒドラジド系化合
   物を成分とし、ニンニク等の発芽抑制に適用されている登録農
   薬C−MHに、発癌性のヒドラジンが混入する恐れがあるとし
   て、製剤の販売を中止し、自主回収に乗り出しているとのこと
   です(詳しくは記事t13207)。

    東京都におかれましては、林業試験場の杉花粉発生抑制のため
   の研究で、マレイン酸ヒドラジド水溶液を使用し、今年度から、
   農薬としての登録がないまま、大規模なパイロット事業を計画さ
   れています。
    私たちは、以下の理由で、
   『今年度の杉花粉発生抑制パイロット事業の中止を求めます。』
    回答のほどよろしくお願いします。

     @パイロット事業で使用される薬剤にヒドラジンがどの程度含有
     されており、かつ、保存中にその量がどの程度変化するか。また、
     薬剤が環境中で、どのような挙動を示すか不明なまま、事業計画
     を実施するのは、問題である。
     A薬剤を調合したり、杉にセットする作業者の健康への影響が危
     惧される。
     Bパイロット事業で、都有林や公園の杉にセットされた場合、薬
     剤の管理が万全に行なわれるかどうか疑問である。
     Cたとえ、杉花粉発生抑制に効果があったとしても、農薬メーカー
     が販売を中止したような薬剤を、今後、農薬登録して、製造販売
     することは困難であり、実用化は期待できないと思われる。
★6月11日に東京都から、7月以降に実施する計画になっていた事業を延期し、半年かけて、薬剤の安全性を確認するための分析試験を実施する旨の回答を得ました。

   【参照】産業労働局報道発表
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作成:2002-11-25