松枯れ・空中散布にもどる    2018年の松枯れなど空中散布状況
n00503#松くい虫空中散布反対運動:2018年長野県の場合(その2)#18-08

【関連記事】記事n00404
【参考サイト】松本の松枯れを考える住民の会のフェイスブック

 長野県や鹿児島県での、松くい虫対策の空中散布が一部で中止されたことは、記事n00404で紹介しました。
 その後、長野県の松本市では、8月8日に、山根二郎弁護士ら25名が、市長を被告とし、ネオニコチノイド系殺虫剤空中散布の公金支出差止等請求の訴訟を松本地裁に起こしました。請求趣旨は下記のようです。
 1 被告松本市長菅谷昭は、松本市里山辺地区の山林(別紙1)及び同市四賀地区
  の山林(別紙2)にネオニコチノイド系殺虫剤を空中散布するための費用を松本市の
  公金から支出し 同殺虫剤を散布業者に空中散布させるための契約を締結してはな
  らない。
 2 訴訟費用は被告松本市長菅谷昭の負担とする。  との裁判を求める
★要注意:アセタミプリドは散布後も土壌に検出される
 松本市で散布されるマツグリーン液剤2の成分アセタミプリドの作用としては、直接被曝によるマツノマダラカミキリの急性致死毒性もありますが、これは、高濃度の散布液(無人ヘリコプター空中散布では、2%液剤を10倍希釈し、その濃度は2000pm)がかかった場合です。ちなみに、松への地上散布の場合は、20%液剤の1000倍希釈ですから200ppm、野菜類には20%剤で2000倍希釈として100ppmで、空中散布の場合の濃度が一番高いです。
 カミキリ成虫は、一斉に松から脱出するわけでなく、1ヶ月ほどの間に、つぎつぎと羽化する上、散布地以外からの飛んでくる個体もあります。空中散布された農薬は松の上部にかかりますが、その際、直接被曝で死ぬカミキリは飛んでいたり、梢の枝や松葉にとりついている個体で、散布直後に、たくさんのカミキリが殺虫されることはありません。もちろん、空散後に、松の幹などの下部から羽化するカミキリには被曝効果はありません。
 1ヶ月ほどの間隔をおいて、二回目の空中散布がおこなわれるのは、直接被曝で死ななかったカミキリが、散布後に松の梢などに付着・残留したアセタミプリドを食べ(散布後に成虫が食べるので後食という)、摂食障害を起こし、数日から10日くらいかけて、衰弱・餓死することをねらったものというのが、林野行政の殺虫効果についての筋書きです。
 松本市がアセタミプリド剤の効果があるとするなら、フィールドでのカミキリの生息調査や殺虫剤散布後の死骸の拾い取り調査を行い、カミキリの個体数減少がどれほどかを確認する必要があるでしょう。

 加えて、散布後、松にかかり、一ヶ月以上残留した農薬が地上に落下し、土壌被覆物中に。その代謝物を含め、長期にわたり、残留することを忘れてはなりません。


 記事t25205で、秋田県健康環境センターの小林さんによる
同県の海岸松林でのチアクロプリド地上散布後の地表被覆物の
残留調査結果を紹介しました、
 左図には、2011 年の飯島海岸林でのアセタミプリドの
地上散布後の地表被覆物中の成分濃度の経時変化を示します。
 7月はじめの散布直後に最大濃度 720 ng/g-dryでしたが、
その後、前述のチアクロプリドとほぼ同様の速度で減少する
ものの、1ヶ月間は100ng/g-dryを超えています。

出典:秋田県健康環境センター調査研究発表会要旨集(平成26年7月9日)
   マツ林に散布された農薬の挙動について
 ○小林貴司 松渕亜希子 菅原冬樹*1 阿部 実*1
     (*1秋田県林業研究研修センター)

 小林さんらは、さらに、松林で採取したキノコ類の農薬濃度を調べ、『一律基準である 10 ng/g を超えた検体は,チアクロプリド散布地点のキノコ 46 検体のうち8 検体,アセタミプリドについては 39 検体のうち 4 検体であった。基準を超えた検体のほとんどが農薬散布後 1 週間以内に採取されたものであり,すでに発生していたキノコに直接,農薬が付着したものと考えられた。農薬散布の時期には初夏のキノコのシーズンがほぼ終わっているが,注意を促すために農薬散布情報の立て看板の文字を大きく見やすくする改善が行われることになった。』としています。

 キノコや山菜への残留も心配ですが、土壌表面に1ヶ月以上残留したアセタミプリドが浮遊粉じんとなり、大気を汚染することも気になります。散布地域周辺住民は、食品や飲料水からのネオニコチノイド摂取に加え、空気からの摂取の恐れを払拭することができません。

★空散廃止連絡協の主張〜総合的な里山づくりの推進を
【関連記事】記事t28105記事t31810記事t31906記事n00202

 松枯れの原因は松くい虫といいますが、松くい虫という虫はいません。林野庁の松くい虫原因説では、松を枯らすのは、マツノマダラカミキリではなく、松樹に生息するマツノザイセンチュウだとしており、カミキリが生息するだけで、松を枯らすことはありません。マツノマダラカミキリ成虫が羽化する際、センチュウを体内に保持したまま松から脱出し、その個体が新たな松の若枝をかじる時、松から松へセンチュウを侵入させ、松枯れが拡大するとされています。
 林野庁らは、有害なセンチュウを媒介する昆虫マツノマダラカミキリを、殺虫剤の空中散布により殺すことが、松枯れ防止に有効であると主張するのですが、40年以上、空散をつづけても松枯れは止みません。カミキリは何キロも飛びますし、広い松林でカミキリの生息をなくすことは不可能です。
 長野県空中散布廃止連絡協議会(愛称コウノトリの会)は、現地調査や統計データの解析をもとに、長野県に空中散布を中止し、総合的な里山づくりの推進を申し入れても、県はその考えをあらためません。
 連絡協議会の村山さんは、下記参考資料で、7月6日に行われた長野県との話し合いの中で、@からCが確認されたと報告しています。
 【参考資料】村山隆さん:まほろばニュース No.327(2018年、信州の教育と自治研究所刊)
       県知事に「松枯れ対策の農薬空中散布の中止」申し入れ〜薬剤散布による防除効果をめぐる考察

 @(県が空中散布推進のため示した)岩井堂山の効果写真の件については、説明不足であり、
  市町村に修正説明を加えて伝え、併せHPにて県民に公開する。
 A防除効果の検証については、研究機関とも協議して、解析結果を今年度中に出す。 
 B林野庁通知基準違反の件は、通達の有無の認識がないので,今月中に見解を出す。
 C県が市町村担当者を対象に開催する「農薬学習会」(以前は有機リン剤のみ)には、
  今後はネオニコチノイド系農薬の負の面も含めて説明する。
 さらに、 何故、薬剤による防除効果が認められないのか? として、4つの点を指摘しています。その要旨は以下のようです。
 (1)松枯れ農薬空中散布の発端が「捏造事件」からはじまった。 空散推進のために
   作られた法律「松くい虫被害対策特別措置法」の根拠資料の捏造・改ざん・隠蔽が発覚し、
   大臣が陳謝し、林務官僚が処分された(昭52/9/12 第81国会農林水産委)。
   にもかかわらず、法律は継続して引き継がれ。以後,この「伝統的捏造体質」が
   全国を覆っている。

 (2)期待する効果が得られないのは「自然界の複雑性」の理由がある。実験室内では
    媒介虫マツノマダラカミキリの完全殺虫は可能だが、自然界では散布適期(羽化時期)
    の判断が難しい。最近では「土壌伝染」が確認され、「潜在感染」(伐倒駆除不可能)
    も報告されており、推進側は「撒きムラ」と主張しいるが、所詮空散による完全防除は期待できない。

 (3)松結れ原因を「虫害説」に特定しているが、原因が異なれば全くのお手上げ状態となる。
    現実の松枯れ原因は虫害説以外に、他病害、大気汚染、酸性雨、土壊の酸性化などがある。

 (4)松樹自体の「抵抗力の低下」が決定的、今の裏山は一昔前の人手の入った山とは違い、
    鉛筆状の松、雑木に覆われた藪、落葉の蓄積した林床となっており、松の抵抗力が著しく低下している。
    そこに止めの一撃で、病害虫が取り憑いて枯死させるのである。
    松樹自体の抵抗力を回復させることなしに、松枯れ防止対策は無理。
 そもそも、松枯れ対策事業は、空中散布以外にも松林の手入れ、伐倒処理、くん蒸処理、直接センチュウを減らすセンチュウ駆除剤の樹幹注入などが並行しておこなわれており、カミキリ殺虫目的の空中散布だけで松枯れがなくなった例は、ありませんし、樹種転換で緑が回復した地域もあります。
 村山さんは、空散中止10年目の上田市が。今年5月、「薬剤散布の効果が薄い」との理由で、地上散布も止めたことをあげ、『この快挙は、県内の見本でもあります。やはり地域に依拠して当該住民自身が声を挙げて運動を起こせば、確実に展望が開けます。私たちは、諦めないで粘り強く,事実と道理を掲げ続けて運動するならば、信州の里山への農薬空中散布の廃止実現が可能となります。その日は遠くない予感が致します。』と結んでいます。
作成:2018-08-29