環境汚染にもどる
t09602#環境庁が内分泌系撹乱物質の環境調査結果を公表−(その1)判明した除草剤及び非塩素系農薬による環境汚染#99-11
 てんとう虫情報86号で、環境庁が「環境ホルモン戦略−SPEED’98」に基づき実施している内分泌系撹乱物質の環境調査で、いくつかの農薬が検出されたことを報じたNHKTVニュースを紹介しましたが(記事t08605参照)、この程、やっとその詳細が明かになりました。SPEEDの名にそぐわない、このデータ公表のスローぶりには、何をかいわんやです。

★今回の調査の特徴
 今回の調査では、いままでの環境庁の調査(化学物質環境安全総点検調査として実施され、いわゆる「黒本」で報告されている)では、検出限界以下との報告しかなかったいくつかの農薬が検出されました。
 これは、従来原則として9月以降であった水質の試料採取時期を農薬の使用時期に近い7月にも実施した/分析の精度を挙げた/検体数を増やしたことが主な原因だと思われます。今後も、農薬が使用される地域で、使用される時期に試料を採取することを原則にした、精度の高い調査の実施が必要です。
 分析試料は水質・魚類・底質・土壌で、大気は対象となっていません。試料採取は以下の要領で行なわれ、59種の環境ホルモン物質(うち農薬39種)の分析がなされました。なお、採取時期は、場所によっては、必ずしもその月でなく、実際の採取時期がその月に一番近かったことを意味しています。
試料     採取時期      地点数

水質     98年7/9/11月  249地点(河川:214、湖沼:20、海域:11、地下水:4)
                       各都道府県別に2〜9地点
底質     98年9月       94地点(河川:84、湖沼:6、海域:4)
                       水質調査地点の中から各都道府県別2地点
魚類     98年9月       48地点(河川:41、湖沼:6、海域:1)
                       水質調査地点の中から各都道府県原則1地点
土壌     98年11月      94地点、水質調査地点の周辺土壌から各都道府県地点
★検出されなかった化学物質は
 分析された環境ホルモン物質で、すべての試料で検出限界以下であったのは、農薬である2,4,5−T、DBCP、NIP、エチルパラチオン、シペルメトリン、ビンクロゾリン、フェンバレレート、メトキクロル、メトリブジンの9種でした。このうち前4者は、登録失効して15年以上になる薬剤です。検出限界値は、農薬と試料の種類によって異なりますが、水質の場合、シペルメトリンが、2μg/L=ppb、他は、0.05μg/Lでした。
 本号では、26種の非有機塩素系の殺虫剤、殺菌剤、除草剤をとりあげ、次号以降で有機塩素系殺虫剤ほかの調査結果に触れることにします。

★水質に検出された農薬
 表1−略−に水質にみつかった農薬の検出率、最大検出値を示しました。
日本では、降雨量が多い上、水田用農薬の使用が多いので、水系汚染は、飲料水汚染や魚介類の汚染につながります。環境庁の水質基準や厚生省の飲料水基準が設定されている農薬の種類は少ない上、低濃度で影響を及ぼす内分泌系撹乱作用等の毒性評価がなされていないため、今後、行政に対して、適正な水質基準の設定を求めていくことが大切です。

【2,4−PA】除草剤2,4−Dとして有名で、ベトナム枯れ葉剤作戦では、2,4,5−Tとともに使用されました。農水省の調査では有害ダイオキシン類は検出限界以下ということですが、横浜国立大学の分析では毒性不明のダイオキシン同族体の含有が判明しています。
 7月試料の検出率14.9%というのは、水質調査でもっとも高い数値です。
 最大検出値は1.56μg/L(宮崎県大淀川)で、これは、悪名高い水田用除草剤CNPの水系汚染でも高値に属する濃度です。三重県鈴鹿川では1.15、香川県土器川で0.78、宮城県阿武隈川で0.32、0.42各μg/Lが検出されています。水田畔や河川敷、堤防などでの使用されるためでしょうか。検出率、濃度とも夏に高く、秋には減少します。非農耕地でも使われる発癌性の疑いのある除草剤だけに、早急な使用規制がのぞまれます。

【アミトロール】75年に失効した畑地・果樹園・非農耕地用の除草剤ですが、23年後の現在も高い濃度で検出されるのは問題です。違法な使用のせいか、他の薬剤の分解物か、他の用途があるか、原因をつきとめる必要があります。
 1μg/L前後の高濃度が検出されたのは、愛媛県の重信川で、沖縄県国場川の0.48μg/Lも高いです。この農薬は甲状腺腫がみられるので、汚染地域の水は、要注意です。

【カルベンダジム】殺菌剤カルベンダゾールの活性成分であるとともに、殺菌剤ベノミル(ベンレート)の代謝物でもありますが、汚染源は水稲・畑作・果樹など広範に使われる後者の寄与が大きいと考えられます。沖縄県国場川で0.76、秋田県八郎潟で0.48各μg/Lが見出ださています。
 欧米では眼の先天異常の原因になったとして訴訟が起こされており(記事t09309参照)、生殖毒性もあるため、検出率が6〜7%と結構高いのが気懸かりです。

【メソミル】畑作用の殺虫剤(ランネート)で、4%の検出率は高い部類です。最大検出値は愛知県汐川と佐賀県六角川で0.65μg/Lでした。この薬剤は、動物実験で成長ホルモンに影響を与えることがわかっています。

【NAC】カーバメート系の殺虫剤で、発癌性、生殖毒性があります。そのためか、松枯れ対策の空中散布用薬剤の製造をメーカーがやめてしまいましたが、農業用には依然として使用されています。全部で5検体に検出されており、最高値は青森県岩木川で0.39μg/Lでした。

【アラクロール】畑作用除草剤ですが、7、9月はすべて検出限界以下でした。11月期に1検体神奈川県金目川で0.38μg/L検出されています。

【マラチオン】有機リン系殺虫剤(マラソン)で、全体で7検体に検出され、最高値は東京都恩田川の0.32μg/Lです。

【CAT】シマジンという商品名でよく知られている除草剤で、主に畑地・芝地・非農耕地で使われます。全体で7検体に見出だされており、最高値は東京都恩田川の0.21μg/Lで、ほかにも出荷量の多い関東各県での検出が目立ちます(記事t08103参照)。

【アトラジン】CATと類似した化学構造をもつトリアジン系除草剤です。全体で9検体に見出だされており、最高値は島根県斐伊川、石川県大聖寺川で、0.09μg/L検出されています。

【エンドスルファン(SO2体)】殺虫剤でベンゾエピンともいいます。α−及びβ−体も分析されていますが、水系に見出されたのは、代謝物のひとつSO2体で、愛知県汐川の1検体に検出されています。

【トリフルラリン】畑作用除草剤で、11月期に1検体、香川県土器川で検出されています。
表1 水質に検出された農薬−略−

★魚類に検出された農薬
 生物濃縮性の高い農薬においては、魚介類中に、水中濃度の数100倍から数1000倍の濃度で、農薬が検出される場合もありますので、注意を要します。
 今回、魚類中に検出された農薬を表2−略−に示しましたが、調べられた検体数が48(各都道府県1)と少ないことを念頭において、結果をみるべきでしょう。

【PCP】70年代前半に、水田用除草剤の大量使用に終止符が打たれ、その後、殺菌剤、シロアリ駆除剤の用途がありました。90年6月には、農薬登録は失効していますが、なおも、魚介類に検出されています。福島県阿武隈川のニゴイと富山県小矢部川ウグイの2検体で、前者が10、後者が8μg/kgでした。
 PCPに由来するダイオキシンが今なお、水田土壌や底質を汚染していると考えられていることも忘れてはなりません。

【ペルメトリン】ピレスロイド系殺虫剤で、農業用のほか、家庭用殺虫剤としても使用されています。検出された2検体は沖縄県国場川のテルピア9、長崎県本明川のフナ8各μg/kgでした。

【カルベンダジム】前節で述べたようにベノミルを汚染源とすると思われますが、魚体内での代謝によるのでしょうか、佐賀県嘉瀬川のフナに4μg/kg検出されました。

【トリフルラリン】水系での検出率が低いにもかかわらず、魚介類では16.7%と一番高くなっているのは、生物濃縮係数3142と高いためと思われます。
 福島県阿武隈川のニゴイ、和歌山県紀ノ川のフナ、鳥取県千代川のコイに4μg/kg、各地のウグイ5検体に2〜3μg/kg検出されました。トリフルラリンは魚の下垂体に影響与えることがわかっているので、水生生物保護の視点からも、規制を考える必要があるでしょう。

  表2 魚類に検出された農薬−略−

★底質に検出された農薬
 農薬の河川・湖沼の水系汚染は、当然、底質に反映すると思われます。底質に堆積した農薬で、水に溶けにくく、生分解性の悪いものは、そのままの形で残留することになるでしょうし、分解しても分解生成物自体が安定なものは、その分解物が残留します。
 表3−略−に示した今回の調査結果で、水系に見出だされた農薬そのものが、底質で検出された例がないのは(カルベンダジムは殺菌剤ベノミルの代謝物と考える)、上記のことを如実に物語っています。

【マンゼブ/マンネブ/ジネブ】この三種は、ジチオカーバメート系の殺菌剤で、甲状腺ホルモンに影響を与えるとされています。今回の調査では、三種を合わせた形で分析されており、検出率は9.6%と高く、最大値は埼玉県新河岸川の100μg/kgで、新潟県信濃川の40μg/kgも高値です。
 三種の農薬の分解物の中には、胎仔毒性のあるエチレンチオウレア(ETU)があり、この化合物が調査されていないことは今後の課題として残ります。同系のチウラムはゴム添加剤としての工業用途もあるので、別に汚染源として考慮しておくべきです。
 最近、アメリカでの研究で、マンネブ及びETUと同系のプロピレンチオウレア(PTU)がカエルの甲状腺ホルモン活性に影響を与え、肋骨奇形などの原因になることが判明していることも懸念材料です。

【ジラム】やはりジチオカーバメートの殺菌剤・忌避剤で、上と同じ埼玉県新河岸川の試料から50μg/kgが検出されています。

【カルベンダジム】殺菌剤ベノミル汚染の結果、分解物として底質に残留していると考えられます。新潟県信濃川で6及び12、山形県最上川で10、長野県諏訪湖で7、鳥取県千代川で6各μg/kg検出されています。

表3 底質に検出された農薬−略−

★土壌に見出だされた農薬
 土壌94検体に検出された農薬を表4−略−に示しました。農薬が実際散布された農耕地が、一番汚染されていると考えられますが、試料の採取場所が都道府県名しか明かになっていないケースが多いのは問題です。土壌に吸着した農薬やその分解物が、土埃とともに、大気浮遊粒子として、人体を汚染することにも、注意をはらうべきでしょう。

【マンゼブ/マンネブ/ジネブ】検出されたのは、和歌山県135と岐阜県13μg/kgの2検体です。
【CAT】検出されたのは、群馬県77、栃木県7、埼玉県3μg/kgの3検体です。
【アトラジン】検出されたのは、岩手県20、埼玉県18 μg/kgの2検体です。
【カルベンダジム】検出率は8.5%と高く、最高値は宮崎県15μg/kgでした。ほかに、長野県4、和歌山県3、群馬県・大阪府2、秋田県1各μg/kgでした。
【PCP】茨城県の1検体から12μg/kg検出されています。
【ペルメトリン】埼玉県の1検体から9μg/Kg検出されています。
【マラチオン】検出されたのは、徳島県6、新潟県2μg/kgの2検体です。

表4 土壌に検出された農薬−略−

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作成:1999-12-21