農薬の毒性・健康被害にもどる
t11403#あまりに無責任な北海道庁の回答−静内町特養ホームの農薬中毒事件#01-05

 北海道の静内町立特別養護老人ホーム・静寿園で起こった室内薬剤散布による、入所者・職員の健康被害については、記事t10504及び記事t11202ですでに報告しました。
北海道庁への質問状に対する回答に納得出来なかった「反農薬東京グループ」は再度質問状を送りましたが、4月10日付道知事名(総合企画部政策室広報広聴課主査)の回答を受け取り、また驚きました。防除業界は慌てて安全講習会まで開いているのに(106号参照)、道庁は依然として、原因の特定が出来ないので防除業者を指導等の対象にはできないというのです。先ず下記の回答とコメントを合わせて読んでください。

◆【質問1】−省略−

◆【質問2】静寿園室内の薬剤濃度を測定したとのことですが、業者名、分析方法、分析結果をお知らせください。
【回答】(1)業者名:株式会社ゼネラルサービス環境センター (2)分析方法:ガスクロマトグラフ質量分析法 (3)分析結果:次表(注:下表−省略−)のとおり
【コメント】分析結果に「不検出」がある場合特に必要ですが、検出限界又は不検出がどの程度か、例えば、不検出<5μg/m3といった具合に書く必要があります。
また、サンプルの取り方、例えば、拭き取り方や気中薬剤の採取方法が書いてなければ得られたデータが信用できるものかどうか判断できません。
 それにしても床のスミチオン2400μg/m2というのは高い値です。基本的には、田圃でスミチオンが撒かれた時と同等です。DDVPは蒸発しやすい農薬ですが、2週間以上も経ってから室内の至る所で検出されています。散布直後はひどい汚染だったと考えられます。
 気中濃度はDDVP、スミチオン共に不検出ですが、検出感度が悪く不検出になったもので、拭き取り後もこれらの農薬で汚染されていたものと考えられます。
 なお、1月29日付の前回の回答では2000年6月15日に3種類の薬剤について測定を行なったと云っていますが、スミスリンについては分析(測定)されていません。

◆【質問3】静内保健所の調査内容として、「許容濃度以下だった」という記述がありましたが、この許容濃度について詳しく教えてください。
【回答】許容濃度:作業者が連日暴露したときに、ほとんどの作業者に悪影響が見られないような大気中の化学物質の濃度のことです。
 ジクロルボス:900μg/m3(米国産業衛生専門家会議)、フェニトロチオン:1,000μg/m3(日本産業衛生学会)。なお、壁や床などに付着している物について、許容濃度は設定されていません。
【コメント】道庁が言うところの「許容濃度」は労働者の職場の環境空気についての基準であって、一般人の生活環境に対する基準ではありません。養護老人ホームの環境判断に適用するのは間違いです。
 さらに、日本産業衛生学会「許容濃度等の勧告」には、「2.許容濃度の性格 (1)人の有害物質への感受性は個人ごとに異なるので、この値以下でも、不快、既存の健康以上の悪化、あるいは、職業病の発生を防止できない場合がありうる。」と「許容濃度」以下でも健康異常が発生する恐れがあることを明らかにし、なおかつ同勧告は「3.利用上の注意」として「許容濃度の利用にあたっては、次の諸点について注意する必要がある。(1)許容濃度は、労働衛生についての十分な知識と経験をもった人々が利用すべきである」と、労働安全衛生上の勧告値である「許容濃度」をみだりに取り扱わないように注意を促しています。
 北海道庁の関係者は「許容濃度」」という言葉を持ち出し、市民を誑かそうとしているようです。
許容濃度など全く定められていない付着濃度や測定していない薬剤まで含めて「いずれも許容濃度以下であった」と嘘の回答を前回しています。

◆【質問4】静内保健所の調査内容として「残留物濃度の測定を行った」という記述がありましたが、この残留物とは具体的に何ですか。
【回答】残留物:居室の壁、床、棚、紙おむつ、ケース入りタオル、持ち込みタオル中のジクロルボス及びフェニトロチオン
【コメント】もし回答の通りだとすれば、拭き取っても残るかも知れない薬剤(それこそ残留物です)を予定して測定したことになります。

◆【質問5】薬剤散布から2週間後に室内などを水式きしたとのことですが、どのような効果がありましたか。水拭き前の濃度と後の濃度のふき取り調査をしたのですか。また、水式きという手段は誰が指示したのですか。誰が拭き取ったのですか。
【回答】(1)効果:不明です。(2)調査:水拭き後のみ濃度調査を行っています。(3)薬剤の製造元である日本曹達(株)の助言に基づき、静寿園が指示しました。(4)実施:静寿園職員及び北海道防疫薫蒸(株)職員が実施しました。
【コメント】健康被害が発生して薬剤の拭き取りを行ったこと自体が薬剤散布が疑われていたことを意味します。一般に有機リン系薬剤にはアルカリで分解されやすい性質があります。そこで有機リン剤汚染除去には中性洗剤ではなくわざわざ石鹸を使用するよう指示されています。日本曹達(株)の助言で水拭きしたとの回答ですが、そうだとすれば薬剤メーカーが薬剤についての正しい知識を持っていなかったことになります。

◆【質問6】入居者、職員の血液検査をしたとのことですが、その結果を教えてください。
【回答】別紙の通りです。(注:単位もない数値だけなので、掲載を省略します)
【コメント】別紙は「血液検査(コリンエステラーゼ値)結果表」と見出しの付いた数字だけの表です。これだけでは何も分かりません。分析方法もいろいろあります。方法によって値も単位も違ってきます。さらに、血液といっても全血か、血清か、血球なのかによって有機リン剤の影響の現れ方が違ってくると云われています。同じ方法でも測定条件によって違った値になりますので、測定機関の標準値(正常値)が必要です。回答の表にはこれらについては何も書いてありません。

◆【質問7】北海道の有機リン中毒の判断基準を教えてください。
【回答】道としての判断基準は定めていません。
【コメント】道として判断基準がないのであれば、いかなる方法で有機リン中毒でないと判断したのか明らかにすべきです。

◆【質問8】業者に対して「指導・告発の対象ではない」との回答ですが、業者はどのような薬剤を使用してもいいとお考えでしょうか。道として事業者の資質向上をはかるために、ひいては道民の健康を守るために少なくとも業者を指導する責任があるのではないですか。
【回答】(1)使用:道としては、害虫駆除業者が害虫駆除を行なうにあたり、どのような薬剤を使用しても良いとは考えていません。(2)指導:当該業者の駆除作業により健康被害が発生したのであれば、法律上、使用方法の規制がない場合においても適正使用に掛かる行政指導等が必要と考えますが、本件のように健康被害の原因が特定できない場合は指導等の対象にならないと考えます。
【コメント】農薬散布後農薬中毒と類似した健康被害が散布域で発生しており、道は使用薬剤に制限があることを認めているのであるから、例え原因が特定できなくても、薬剤使用方法が適当だったかどうか、瑕疵はなかったか調べ、指導し、今後発生するかも知れない事故を未然に防ぐ努力をすべきです。

◆道は責任を果たすべきだ
 道は原因が特定できないと逃げますが、果たしてそうでしょうか。
 先ず、事件が起こったところは薬剤散布した施設です。空間的関係があります。そこに健康被害を引き起こすに十分な要因物質が存在しました。また、撒いた後に起こり、時間的関係があります。さらに、その物質摂取によって現に生じた症状と同じ健康異常が起こることが知られています。これらのことを総合的に考慮すれば、原因は薬剤散布です。原因が特定できないと云うのは言い逃れです。責任を果たすべきです。
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作成:2001-06-23