環境汚染にもどる
t10704#早急におしすすめるべき不用農薬等の回収処理#00-10
 反農薬アドバイスJで不用農薬の処分についてどうすればよいか行政に問い合わせた結果を報告しました。今回は神奈川県の農協の一部が、使い残し農薬の回収に取組んでいる実情と、この件で監督する立場にある腰の重い行政当局の動きをお伝えします。

★JAセレサ川崎の取組み
 川崎市に本拠地をおく農協JAセレサ川崎は、今年の5月23日に残農薬と空き容器の回収を実施しました。同農協の広報誌『セレサ』31号は、「残農薬も回収処理」という特集を組んでいますが、その中で今、農協が回収処理に取組んだ理由を以下のように述べています。
「生産者の多くは使用期限切れの薬剤や使えなくなった古い農薬を農薬保管庫や農作業舎にやむえず保管しているのが現状です。昨年(99年)夏、富山県の農家で連続4件の原因不明の火災が発生しました。事故後の詳細な調査で、長期間放置された使用期限切れの農薬が夏場の高温で発火したことが明らかになりました。さらに、毒物混入事件などもあり、農薬類の保管や処理に細心の注意が求められます。
 昨年行われた当JAの協同活動強化委員会において二会場で、残農薬処理回収の要望が出されました。期限切れ農薬類や空き容器に処理に悩んでいる組合員の切実な声を代弁する意見でした。」
 ということで、農家個人では難しい残農薬の処理を農協全体の問題として検討し、組合員より委託を受けたJAが産廃処理管理票(マニフェスト)に基づき産業廃棄物処理業者に委託契約して処理回収することになりました。処理業者としては、福島県いわき市にある呉羽環境株式会社(塩化ビニリデン製ラップフィルム「クレラップ」で知られている呉羽化学の関連会社)が選定されました。

★処理費用の一部を農協が負担
 JAは、残農薬類を表1のような区分にわけ、農家個人が負担する処理費用を設定して、回収にあたりました。県の経済連や農薬メーカーに回収奨励施策がないため、独自に40万円の予算(運搬輸送費用、作業費、資材費に充当)を組んだそうです。
 今回回収された残農薬類の数量内訳ははっきりしませんが、135件約2500Kg(1件最高で180Kg)が集まったということです。参考のため、表2には、セレサ川崎に先だって、99年1月に実施された、同じ神奈川県内のJAさがみの残農薬回収量を区分別に示しておきました。
 JAセレサ川崎では、このような残農薬類の回収処理を毎年実施していくだけでなく、農薬や化学肥料の30%削減を目標にして、環境保全型農業を実践していくとのことです。農薬・化学肥料の販売業者でもある農協自体が、生産者自身の健康や食の安全性、環境への配慮から減農薬に取組まざるを得なくなってきた状況が生まれつつあるようです。
表1 残農薬類の処理費用                表2 JAさがみでの残農薬類回収量

残農薬類区分         処理費用*         残農薬類区分        回収量(Kg)

毒劇物指定なしの農薬  200円/Kg         毒劇物指定なしの農薬1,099.2
水銀剤               6000円/Kg         水銀剤                 26.7
クロルピクリン剤           1200円/Kg         クロルピクリン剤            115.5
不明品                800円/Kg         その他                 98.0
空きビン               100円/Kg         スプレー缶                 2.8
空き缶(クロピク用)       800円/缶         空ビン類               216.0
空き缶(その他)        500円/缶         空缶類                333.0
                                        合 計              1,891.2
*:重量は容器の重さも含む
★腰の重い農水省
 みずから経費を負担して、残農薬類の処理を行おうとする、農業現場に比べ、農水省の動きは遅々としています。同省は植物防疫課関連の来年度概算要求に、農薬環境負荷低減適正処理技術等開発事業として、60億円を計上しました。
 この事業には、@農薬容器の再使用・再生使用促進のため、容器の高度な洗浄技術の開発、単層でも強度の高い容器の開発、A農薬容器の円滑な循環利用体系の構築、B使用残農薬の処理技術開発、C不用となった使用残農薬の適正な回収処理システムの検討、D種子消毒後の農薬廃液の適正な処理技術開発等、が含まれています。列挙されていることは、とりもなおさず、現在、きちんと実施されていないことの裏返しです。
 農薬の空容器の処理やリサイクルは、一昔前のガラスビンの使用により十分解決する問題です。それよりも、農家の納屋に眠っている使い残しの農薬(禁止されたもの、登録失効したもの、有効期限の切れたもの)の実態すらわかっていないのが、現状ですから、まず、綿密な調査を農水省は実施すべきです。
 神奈川県内農協の残農薬回収では、水銀剤もでてきましたし、現場の写真をみると禁止になったBHCのカートンやEDBの缶が見られます。果たして、中身はどうなっているかと心配せずにいられません。
 また、残農薬の回収はそれを製造したメーカーや販売者の責任で回収処理システムをつくればよいことで、何も農水省が予算をとる必要がありません。
 むしろ、農水省には、禁止農薬や登録失効農薬、さらには有効期限切れ農薬の回収義務付けがない現行の農薬取締法の不備を是正して、業界に対して強制力を発揮するよう条文改正してほしいものです。

★登録失効した農薬の回収を
 てんとう虫情報93号で、登録失効農薬のリストを上げましたが、その後、この一年間にカルベンダゾール(失効日99年11月30)、アルギン酸(99年12月17日)、粘着剤フジタングル(99年12月18日)、PCNB(2000年3月26日)、スモールア(2000年7月11日)の5農薬の登録が失効しました。このうち殺菌剤カルベンタゾール(MBC)とPCNB(=キントゼン。商品名:ペンタゲン、アースサイド、コブ、ほか)は環境ホルモンの疑いのある薬剤で、特に後者は、HCBやダイオキシン類を含むため、メーカーが既に製造中止していたものです(てんとう虫88号参照)。  これらの失効農薬は、今後、農家が使用したり、海外へ輸出されることがないよう、製造業者や販売業者は、率先して回収すべきで、農水省には、その旨、きちんと指導してもらいたいと思います。
★忘れてならないPOPs農薬問題
 POPs規制の国際条約(超残留性有機汚染化学物質。農薬及びその関連物質として、DDT、アルドリン、エンドリン、ディルドリン、クロルデン、ヘプタクロル、HCB、PCB、ダイオキシン類ほか12物質が上がっているが、私たちの求めるBHCは含まれていない)がまとまりつつある中で、環境庁はPOPs系農薬の無害化処理技術に関する調査研究を2001年度から4ヵ年計画で実施すると発表しました。
 今から調査を始めるというのも、信じられませんが、忘れてはならないのは、農水省が30年近くも前に土中埋設を命じたDDTやBHC、2,4,5−Tその他の農薬の行方についてです(TBSテレビの調査では埋設された有機塩素系農薬は1万2千トンに及ぶという−記事t09703参照)。過去に埋設処理した場所をきちんと調査し、環境汚染が拡大しない措置をとるのが先決問題で、環境庁は農水省から情報を得て、しっかりやってもらわねば困ります。さらに、POPs系農薬で処理された畳や建築用木材廃棄物の無害化処理なども検討されねばならぬ問題のひとつです。

★やっぱりPRTR法は中小業者や個人にも適用を
 このところ農薬のよる犯罪が相次いで起こっています。
 9月5日、長野県望月町の農家の畑で栽培中の白菜約700株が枯死するという事件が起こりました。これには、除草剤シアン酸ナトリウム系除草剤が使用されたということです。また、9月26日には、横浜市にある保土ケ谷公園で、鳩約40羽が死亡しましたが、神奈川県警科学捜査研究所の調べで、ばらまかれていた餌に劇物農薬ディプテレックス(DEP)が混入されていたということです。
 いずれも、農薬が犯罪に使用されたわけで、有害物質の管理がいいかげんであることにも一因があると思われます。てんとう虫情報98号で、PRTR法に関して、私たちは環境汚染物質排出移動登録を行なう事業者として、農薬関連物質を散布する小規模業者や個人も対象とすべきだとする意見を述べましたが(記事t09801)、審議会の論議では一蹴されてしまいました(記事t10002)。これでは、農薬のような有害物質がどこで、どれだけ購入され使用されたかを特定することできません。農薬類の製造・販売・保管・使用・回収までをきちんとした管理下におかないと、農薬による犯罪はもちろん、環境汚染や健康被害を防止することはできないでしょう。
購読希望の方は、〒番号/住所/氏名/電話番号/○月発行○号からと購読希望とかいて、 注文メールをください。
年間購読会費3000円は、最初のてんとう虫情報に同封された振替用紙でお支払いください。
作成:2000-11-25