行政・業界の動きにもどる
t11303#農薬安全使用基準の設定は増えたが−安全が確保されるかは疑問#01-04
 農薬安全使用基準については、いままで、残留農薬の視点から何度かてんとう虫情報でも取り上げ、現行基準の問題点を指摘してきました(記事t01102記事t03303記事t04303)。この基準は、農水大臣は農薬取締法第十二条の六に基づき、農薬使用者が守るべきものとして、公表・指導しているもので、92年11月に全面改定され以来、年2回の割で、内容の見直しが行なわれ、2000年12月末までに、16回の改定がなされてきました。

★農薬残留に関する安全使用基準−遵守されているかはやはり疑問
 この基準は、農作物の残留農薬値が食品衛生法で定めた農薬残留基準以下になるよう、農薬ごとの使用基準を示したものです。
 農薬取締法で規制されているDDT、BHC、パラチオンを使用しないこととなっているほかに、年々、基準が設定された農薬の数が増え、2000年末には168農薬となっています。その農薬が適用される農作物と使用剤型ごとに、使用方法、使用期間、使用回数が一覧表で示され、遵守するよう求められるわけですが、「安全使用基準」の有無に拘わらず、すべての農薬について、農薬取締法第ニ条の農薬登録申請時に提出された「適用病害虫の範囲及び使用方法」(適用作物ごとに、希釈倍数、総使用回数、使用時期などが農薬容器・包装のラベルに表示されている)を守る必要があることは、いうまでもありません。
 しかし、適用外使用をしても何の罰則規定もない現状を考える時、実際の農業現場で「安全使用基準」や「適用病害虫の範囲及び使用方法」が遵守されているか保証の限りではありません(記事t03303)。

★ふえる一方の収穫前日まで使用可農薬
 農薬残留に関する安全使用基準は、いままで指摘した問題点が、まったく改善されていないだけでなく、「安全使用基準」そのものも、収穫前日まで使用を許されている農薬が71種、農作物が47種と以前よりふえていることが気になります。
 表には作物別、農薬別で上位10位にあるものリストを掲げました。左側は、作物別に前日まで使用可能な農薬の数がいくつあるかを示したものです。成熟したものから毎日収穫する必要のあるキュウリ、ナス、トマト、イチゴ、ピーマンなどで、収穫前日まで使える農薬の数が多く、病害虫が発生しないように、日替りで異なる農薬が使われないよう、総農薬散布回数の制限も必要ではないかと思います。
 また、右側は農薬別に、前日まで適用できる農作物の種類がいくつあるかを示したもので、主な商品名と単製剤の生産量と併記してあります。環境ホルモンの疑いのあるペルメトリンやシペルメトリンがそれぞれ14種、13種の農作物に適用可能となっていますし、神経毒性のある有機リン剤DDVPが11種の農作物で適用可能(そのうちコメ・コムギ・豆類は保管中可能)となっていることが懸念されます。
    表 収穫前日まで使用可能な農作物と農薬上位10種リスト

   順位  農作物名 農薬数  農薬名   用途  主な商品名 単製剤生産量 作物数
    1      キュウリ      53      イプロジオン    殺菌剤   ロブラール       260.6 トン   14
    2      ナス        46      トラロメトリン    殺虫剤   スカウト          30.5      14
    3      トマト       41      トリフルミイゾール  殺菌剤   トリフミン        125        14
    4      イチゴ      34      ペルメトリン     殺虫剤   アディオン       543.1      14
    5      メロン       29      シペルメトリン    殺虫剤   アグロスリン      127.2      13
    6      ピーマン     24      フェンプロパトリン 殺虫剤   ローディ        111        12
    7      スイカ       22      DDVP        殺虫剤   DDVP         814.4      11
    8      モモ        15      クレソキシムメチル   殺菌剤   ストロビー       160.4      10
    9      カボチャ      9      フェンピロキシメート 殺虫剤   ダニトロン        73.5      10
   10      サヤエンドウ    7      ミクロブタニル    殺菌剤   ラリー           84.8      10
★水産動物の被害防止に関する安全使用基準
 散布された薬剤が河川・湖沼・海域・養殖池などに飛散又は流入する恐れのある場所で使用してはならない農薬として、水質汚濁性農薬に指定されているベンゾエピンとデリス(ロテノン)の2殺虫剤とともに、殺虫剤33、殺菌剤14、除草剤1の農薬があげられています。散布に使用した器具・容器の洗浄水を河川等に流さない、空容器等の処理を廃棄物処理業者に委託すること等が求められます。この使用基準が設定されている農薬についての飲料水に対する水質基準はありません。

★水質汚濁の防止に関する安全使用基準
 94年4月の改定で、設定されました。水田で使用する際のベンチオカーブ乳剤と粒剤の使用基準があるほか、D−D、チウラム、ベンチオカーブ、CATについては、使用された農薬が河川等や浄水場に飛散する恐れが生じた時は、直ちに使用を中止すること等が求められています。
 この4種の農薬については、飲料水についての水質基準が定められています。昨年、岡山市の水道水源にイモチ病対策の殺菌剤IBPが検出され、取水が長期にわたって停止されるような事態が生じましたが、安全使用基準が、このようなことの防止に役立たなかったことは問題です。

★航空機を利用して行う農薬の散布に関する安全使用基準
 94年4月の改定で、設定されました(記事t02508)。現在、殺虫剤17、殺菌剤20、除草剤5、殺鼠剤2、植物成長調整剤1の農薬が使用基準の対象になっています。
 市街地等人口密集地、河川等の区域及び浄水場、学校、病院等の区域では、散布しないこと等の使用基準がありますが、より具体的には、農水省が、てんとう虫情報112号で示したような「農林水産航空事業の推進方針」で指導しています(記事t11201)。空中散布による農薬飛散をどの程度許容するかについては、水質や大気の数値基準がないこともあって、極めてあいまいになっており、安全という根拠が明確ではありません。
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作成:2001-05-26